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研究内容の紹介


研究題目:円形イベントホールにおける建築音響設計とその物理的・心理的効果

1. はじめに

 建築計画上のコンセプトから真円の平面形となった多目的ホール(400席)において、その形状に起因する音響的不利を打ち消すために、計画段階において音場の時間的・空間的要因に基づく様々な工夫を行い建築設計に反映した。同時に、主観的プリファレンス理論に基づいてホール内の各座席における音響シミュレーションを行ない、その結果を実施設計に反映させた。竣工後、ホール内での音響測定を通じて、上記の建築音響上の工夫における効果について検証を行なった。

2.建築音響設計の概要

 音の知覚に関する人間の大脳の機能分化(左大脳半球の時間的処理および右大脳半球の空間的処理)の観点から、このホールの建築音響設計について時間的・空間的制御という2つのカテゴリーに分けて仮説を立て、設計を行なった。

2.1 時間的制御
・ 残響調整室と電気音響を利用したハイブリッドの後続残響時間の調整
・ 「ささやきの回廊」現象、すなわち壁面に沿って室内を巡回する有害なエコーを防ぐための、ステージと正対する位置にある母子室の張り出し

2.2 空間的制御
 ・天井付近における様々な大きさの音響拡散板の空間的配置
 ・音場としての床下空間の利用
 ・IACCの改善を目的とした側壁およびステージ上方の反射板の空間的配置

3.音場シミュレーションと建築シミュレーション

 上記の音響上の工夫を、意匠上のコンセプトを損なうことなく、また効果的に表現するためのツールとして建築設計に取り入れた。そして、音場の独立する4つの物理ファクターである聴取音圧レベル、初期反射音の遅れ時間、後続残響時間、IACCについて以下の4つのケースについて音響シミュレーションを行ない、それらの効果を確認するとともに、シミュレーション結果を踏まえて断面計画等を再検討し実施設計に反映させた。

 ケース1:基本計画案(原案)
 ケース2:ケース1からステージ上方の音響反射板の角度を変更
 ケース3:ケース2から客席側方及びステージ側方の反射板の角度および断面形状の変更
 ケース4:ケース3からステージ上方の音響反射板の角度を変更

このホールは多目的ホールであり、コンサート仕様と講演仕様としてホール形状が可変する。各仕様においてステージ上の音源位置を変化させた音響シミュレーションも行なった。また、残響付加装置を使用した場合について、ケース4におけるシミュレーションも行なった。これら各ケースのシミュレーションを行なうと同時に、各座席における主観的プリファレンス尺度値を計算し、その効果を確認した。

 建築内観シミュレーションとして、コンピュータ・グラフィックスを用いて視覚的なイメージ、効果について検証した。特に天井付近に設置した照明器具を兼ねた音響反射板が、意匠上もこのホールの個性化の一助となっていることを確認した。

4.竣工後の音響測定

 ホールの竣工後、上記の4つの物理ファクターについて音響測定を行ない、シミュレーションとの相違を検証した。この結果、特にIACCについては、ステージ前方の席についてシミュレーションの結果よりも大きく改善されていた。これは、シミュレーション時には計算上考慮されなかった天井付近に設置された音響拡散板の効果であると思われる。
 また、時間的・空間的な制御を行なう音響設計上の各工夫について、個別に検証できるものについては、その効果を確認した。ひとつは客席側方及びステージ側方の反射板について、その角度を変化させて実測することによりその効果を検証した。また、床下空間の効果について、15 mm 間隔 で孔の直径 5 mm の有孔床上および孔の空いていない床上で実測を行ない、低周波数範囲(およそ 150 Hz)での音圧レベルのディップが有孔床によって解消されていることと、それが計算結果とほぼ一致することが検証された。

5.まとめ
 上記のシミュレーション及び実測を通じて円形ホールにおける以下の知見を得た。

・ ステージ側方に配置した反射板がIACCの低減に対して有効に働くこと。
・ 天井付近に設置した音響拡散板がIACCの低減に対して有効に働くこと。また、これらは照明器具を兼ねることによりホールの個性化のための意匠上有効な手段となり得ること
・ 床下空間を音場として床上空間と一体利用するため、客席部分の床を有孔板とすることにより低音域の音圧レベルのディップを解消できること。
・ 壁の一部を部屋として張り出させることにより、「ささやきの回廊」現象を防げること。